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髪の毛と脂肪細胞!その意外な関係性を科学する
私たちの髪の毛の健康が、実は体内の脂肪細胞の状態と深く関わっているかもしれない――そんな研究が近年進められています。肥満が体に様々な悪影響を及ぼすことは広く知られていますが、その影響が頭皮や毛包にまで及び、薄毛の一因となる可能性が指摘されているのです。この少し専門的なテーマについて、分かりやすく解説します。脂肪細胞は、単にエネルギーを貯蔵するだけでなく、様々な生理活性物質(アディポサイトカイン)を分泌する内分泌器官としての役割も担っています。肥満によって脂肪細胞が過剰に蓄積したり、その機能に異常が生じたりすると、これらのアディポサイトカインの分泌バランスが崩れます。例えば、炎症を引き起こすTNF-αやIL-6といった物質の分泌が増加し、逆に炎症を抑えたりインスリン感受性を高めたりするアディポネクチンの分泌が減少することが知られています。このような体内の慢性的な微小炎症状態は、頭皮の毛包周囲にも影響を及ぼすと考えられます。毛包は、毛母細胞が分裂・増殖して髪の毛を作り出す重要な器官ですが、その周囲で炎症が持続すると、毛母細胞の働きが阻害され、健康な髪の成長サイクル(ヘアサイクル)が乱れてしまう可能性があります。具体的には、成長期が短縮し、休止期が長くなることで、髪が十分に太く長く成長する前に抜け落ちてしまう「軟毛化」や、抜け毛の増加につながるのです。また、肥満はしばしばインスリン抵抗性を伴います。インスリン抵抗性とは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなる状態のことで、2型糖尿病の主要な原因の一つです。インスリン抵抗性が進むと、高血糖状態が持続し、血管内皮細胞にダメージを与え、血流が悪化する傾向があります。頭皮には無数の毛細血管が張り巡らされており、これらの血管を通じて髪の毛の成長に必要な酸素や栄養素が供給されています。血流が悪化すると、これらの供給が滞り、毛母細胞の活動が低下し、結果として薄毛が進行する可能性があります。さらに、一部の研究では、脂肪細胞から分泌される特定の因子が、毛包幹細胞の機能に直接影響を与える可能性も示唆されています。